アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「第35話 莱夢と北斗のお引越し」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 第35話 莱夢と北斗のお引越し 

 莱夢と北斗は2度の引越しを経験している。最初の引越しは2003年の5月、パパとママの勝手な都合で、ママと一緒に実家に引越したとき。2度目の引越しは2005年の3月、ママが再婚することになり、ママと新しいパパと一緒に川越に引越したとき・・・。

 最初の引越しは、それほど大きな問題ではなかった。と言うのは、引越し先は車で10分ほどしか離れてなかったので、動物病院もお散歩仲間も変わらなかったからだ。とは言え、慣れ親しんだ家を離れることは、莱夢と北斗にとってかなりのストレスになることが予想された。特に心配なのが北斗だった。北斗は完全室内飼いの子なので、家から出たことがない。家以外の場所と言えば、動物病院くらいしか知らない子だった。北斗がストレスから体調を崩したりしないだろうか?彼らのストレスを減らすため、荷造りは2階から始めた。また、彼らが日常使っているものは梱包しないで、マイカーで運ぶことにした。どんなに準備で忙しくても、散歩や食事の時間などの生活リズムは決して崩さないようにした。それでも日に日に高くなる段ボールの山に囲まれ、莱夢も北斗もソワソワと落ち着かず、不安そうだった。

 いよいよ引越し当日がきた。荷物の運び出しが始まる前に、北斗はキャリーバッグに入り、莱夢はそのまま、それぞれ車の中で待機させた。また、莱夢と北斗のベッドやトイレなども、車の中に積み込んだ。大きな荷物は次々とトラックに積み込まれ、部屋中の段ボールの山はどんどん減っていった。数時間後には車で10分ほどの新居に移動した。すべての荷物を新居に収め終えたトラックを見送った後、まずは莱夢と北斗が身の回りのものから設置を始めた。莱夢のトイレをリビングの落ち着いた片隅に置き、お気に入りのクッションをトイレから離れた隅に置く。それから北斗のトイレを2階のトイレの隅に設置した。猫砂には以前使っていたトイレの砂を一握り混ぜておくことを忘れなかった。北斗愛用の爪とぎも、キッチンの隅と2階の踊り場に設置した。彼ら共通の水飲み用の食器は、以前の家の「ハウス」に当たる位置に用意した。

 車の中で待機させていた莱夢を家に招きいれる。莱夢は床のニオイや積み重なったダンボールのニオイをがぎ、1階のすべての部屋を確認して回った。自分のトイレとクッションのニオイは念入りに確認する莱夢だった。次に北斗をキャリーバッグから出した。北斗は勢いよくバッグから飛び出し、まずは莱夢に駆け寄ってニオイをかいで確認した。莱夢がそっと北斗の頭をなめてあげると、北斗は爪先だって身体を莱夢にこすり付けて甘えた。その後、北斗は1階の部屋を恐る恐る確認しはじめた。時々「ニャーン、ニャーン」と甘えた高い声で誰かを呼んだ。たぶん、前の家においてきた伽凛を探しているのだろう。1階の確認が終わると、次は階段を駆け上がり、2階の部屋を見て回った。誰かを探すような、淋しそうな甲高い声で鳴きながら・・・。2階の爪とぎを見つけたらしく、不安とイライラを解消させるようにガリガリと爪をとぐ音が響いてきた。ひととおりすべての部屋を確認し終わると、北斗は莱夢の傍にピッタリと寄り添って離れなくなった。落ち着いた頃を見計らって、莱夢と北斗に食事を与えたが、莱夢は予想どおりまったく食べなかった。北斗は変わらない食欲を発揮して、もくもくとご飯を食べてくれた。北斗が毛繕いを始めたので、抱っこして2階のトイレに連れて行き、そっとトイレの中に入れてあげる。トイレから出てしまった北斗を抱き上げ、「ホクちゃん、ここがトイレだからね」とまたトイレに入れる。たぶん、これで北斗はトイレを覚えただろう。引越し当日はリビングに夜具を敷き、みんなで一緒に眠ることにした。

 翌朝になると、北斗はいつものようにご飯をおねだりしてくれた。食後に元気よく階段を駆け上がっていったので、「これはトイレかな?」と耳をすましていると、やがて「ザッ!ザッ!」と砂をかき回す音が聞こえてきた。勢いよく階段を駆け下りてから毛繕いをする北斗だった。そっとトイレを見に行くと、砂がこんもりと偏っていた。ちゃんとオシッコをしてくれていたのだった。

 予想に反して、北斗はすんなりと新しい家に馴染んでしまった。よく、「猫は家に付く」と言うけれど、北斗にとって莱夢がいる場所が「家」のようだった。莱夢は当初から心配していなかったが、予想通りすぐに馴染んでくれた。莱夢にとっても、私がいる場所こそが「家」なのだろう。やがて父の転勤先から戻ってきてくれた母も加わり、穏やかな日常を送るようになった。

 時は流れ、私自身の人生に大きな転機が訪れた。再婚することになったのだ。紆余曲折の末、莱夢と北斗が安心してのびのびと暮らせる家が見つかった。ただし、場所は埼玉県の川越市。2度目の引越しは、正直いろいろと不安だった。最初の引越し同様、莱夢と北斗はたぶん新しい家にはすぐに馴染むと思う。でも、見知らぬ土地で莱夢に友達が出来るだろうか?何よりも、T先生のようなよい獣医が見つかるだろうか?ペットと暮らす者にとって、物言わぬ彼らの健康と生命を託せる獣医がいるかどうかは、とても大切なことだった。

 莱夢と北斗の引越し自体は、思ったとおりにスムーズだった。最初の引越し同様のプロセスを踏みながら、数日で新しい環境に馴染んでくれた。やはり問題は、獣医探しだった。莱夢と近所を散策しながら、犬の散歩の方を見かけるたびに声をかけ、どこの動物病院に行っているか聞いて回った。多くの人に薦められた動物病院に的を絞って、いざ莱夢と北斗を連れて行ってみた。結果は笑えるほど散々だった。莱夢に対してまったく言葉をかけてくれないし、触ってくれない。北斗にいたっては、「洗濯ネットに入れてきてください」と言われる始末。洗濯ネット越しにただ体重を量るだけだと言うのだから驚いた。直接触れずに、いったい何がわかるのだろう?何の説明もないまま、いきなり莱夢から血液を採取し、勝手にフィラリアの検査をされたときには、驚きのあまり抗議することも忘れてしまった。会計時には初診料やら再診料やら、その他の細かい処置欄がいっぱいある、高額の明細を提示された。この病院に、大切な莱夢と北斗を託すことなんて出来ない。多少遠くても構わないと思い、水上公園で出会った飼い主さんから教えられた病院にも行ってみた。正直、納得のいく病院はなかった。T先生を100点とすれば、どこも50点〜60点程度で、安心して託せる獣医はいなかった。このまま、納得のいく病院が見つからなかったら・・・。不安になってしまう私だった。

 川越に引越して数週間経ち、少しずつ道を覚えてきた頃、比較的近所に感じの良い動物病院を見つけた。それが、莱夢を子宮蓄膿症から救い、現在もお世話になっているP動物病院だった。思い切って莱夢と北斗を連れて行くと、30代半ばくらいの獣医さんと明るい看護師さんが迎えてくれた。まずは莱夢の健康診断から。P先生は診察台の上に莱夢を乗せると、言葉をかけながらたっぷり30分以上かけて診察してた。耳、目、口腔内、心音、各関節、腹部、乳房、肛門・・・。今までの病歴や心配なこと、たくさん話を聞き出してくれた。北斗にも同様に言葉をかけながら30分かけて診察してくれた。北斗の耳や目はもちろん、奥歯の歯石まで診てくれた。北斗の腹部を触り、「少しオシッコが溜まってますね」とまで言ってくれた先生だった。川越に越してきてから、ここまで北斗を診てくれる先生は初めてだったので嬉しくなった。会話の途中で「神奈川から越してきた」と伝えると、先生は「開業以前、神奈川県の大磯で修行していた」と教えてくれた。たったそれだけで親近感が湧いてくるから不思議・・・。何よりもこの先生には、何でも気軽に聞ける雰囲気があった。実際に薬の値段や効果について質問したところ、快く、納得行くまで説明してくれた。診察室内には小さなホワイトボードとモニターがあり、図解してくれたり、顕微鏡やエコーの画像を映しながら説明してくれるようだった。川越に引越してきてから、初めて安心して莱夢と北斗を任せられる気がした。

 その後、莱夢が膀胱炎になったときの対応の良さに安心し、P動物病院に通うようになった。時間外でも電話に出て、適切な指示や診察をしてくれることもありがたかった。フィラリア予防で行けば、神奈川のT先生同様に莱夢の全身をチェックしてくれることも嬉しかった。また、北斗のフロントラインの際も莱夢同様に全身をチェックしてくれた。何よりも、莱夢はP先生が好きになったようで、病院に行けばカウンターに前脚を乗せて挨拶し、診察台にも自分で飛び乗るようになった。

 ペットを連れての引越しは、住宅事情や環境の変化、そして動物病院探しと、悩みが尽きないものだ。言葉で表現できない彼らなので、私たちが気づいてあげることが大切・・・。2度の引越しで特に気をつけていた点をまとめると、以下のようになる。ペットにとっても新しい毎日が楽しく迎えられるよう、参考になると嬉しいのだけど・・・。


◆引越しで気をつけたこと◆
  1. ペットの荷造りは最後にまわす
  2. ペットが日常使っているものはマイカーなどで運び、引越し先ですぐに使えるようにしておく
  3. ペットの生活リズムを崩さないように気をつける
  4. ベッドやトイレなどはあえて洗わず、ニオイを残したまま引越す
  5. 引越し当日はペットをかまいすぎず、そっとしておく
  6. 引越し当日はペットを独りきりにさせず、傍で見守る
  7. 問題行動を起こしてもむやみに叱らない

◆動物病院探しで気をつけたこと◆
  1. 引越し先の動物病院をあらかじめピックアップしておく
  2. 引越したら近所での評判や意見を参考にする
  3. 実際にペットを連れて行ってみて評価する
  4. ペットの扱い方や診察中の態度、会計など、自分に合うかどうか確認する
  5. 自分に合わない、納得できない動物病院ならほかを探す
  6. 実際に病気になったときの対応で判断する