アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「第30話 暗中模索 ドッグショー」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 第30話 暗中模索 ドッグショー 


  莱夢と私のショーチャレンジは、いっけんとても順調だった。怖いくらいに・・・・。2001年10月7日の「FCI埼玉インタナショナルドッグショー」でのM.CC獲得を皮切りに、2001年12月23日の「東京南クラブ連合会CH展」ではグループ2席入賞で2枚目のM.CCを獲得。また、2002年3月17日の「神奈川北クラブ連合会展」では、なんとグループ1席入賞を果たし、3枚目のM.CCを獲得したのだった。ドッグショーデビューから約1年で、莱夢は3枚のM.CCをゲットしていた。立て続けに獲得したM.CCは、私を慢心させるには充分だった。「出れば勝てる!残りわずか1枚。あと1枚で、莱夢はJKCチャンピオンになれる!」そんな私の思い上がった気持ちは、いつしか「莱夢と楽しく走る」気持ちを忘れさせていった。「楽しいドッグショー」から「勝つためのドッグショー」へと変わっていった。そんな気持ちの変化が、莱夢に伝わらないはずはなかった。

 「おかしい」と思いはじめたのは、2002年の「アジアインターナショナルドッグショー」だった。この日、私は当然「勝てる」つもりでいた。2001年のアジア展でデビューした莱夢が、2002年のアジア展で華々しくフィニッシュする・・・。リング中央でウィナーズ・ビッチに表彰される莱夢の姿すら思い浮かべていた。(本当に恥ずかしいかぎり・・・・)

 実際にショーが始まると、莱夢の動きがいつもと違って鈍いことに気が付いた。ラウンドのスピードが遅く、まるで歩いているようだった。私はそんな莱夢を引っ張りあげるよう、キリキリとショーリードを引き上げて走った。そんな私達が、ほかの子に勝てるわけなんかないのだ・・・・。莱夢はドッグショーが嫌いになっていた。1年前、あんなに楽しそうにリングを走った莱夢は、もうどこにもいなかった。今思い出せば、調和も一体感もない、信頼関係すら壊れたハンドリングだったと思う。恐ろしいことに、私はそのことに気が付かなかった。莱夢を追い込んでしまった自分に気が付かず、認めず、莱夢ばかりを責める私がいた。「なんでちゃんと走らないの!」と・・・。

アラスカンマラミュート 画像 アジア展の敗北を忘れるように、私はドッグショーに出まくった。クラブ展よりも連合会展のほうがCCを獲得しやすいので、思い切って遠くのドッグショーまで遠征した。長野、茨城、福島・・・・。遠くに行けば行くほど莱夢は疲れ、私は益々莱夢不在のハンドリングを続けた。最悪だった・・・。とても苦しかった。いっそドッグショーなんてやめてしまおうと、何度も思った。ああ、でもM.CCが3枚揃っているのに!あと1枚なのに!!その最後の1枚がどうしても欲しい!もしもCCが1枚もなければ、とっくにドッグショーなんてやめていただろう。私は、「勝つためなら」と、今まで決して切らなかった莱夢のひげすらも切り落とした。「莱夢のひげは切らないし、切る必要もない。そのままの莱夢でいい」と、こだわり続けてきたのに・・・。ひげを切ることで、私にとっての莱夢が「家庭犬」から「ショー専門の犬」に変わってしまうようで嫌だったのに・・・。そのポリシーを捻じ曲げてでも勝ちたかった。まさに、「なりふり構わない」状態にまでなっていた。

 ショーに出てもまったく楽しくない、まったく勝てない。そんな2002年の秋が過ぎようとしていた。「ハンドリングってなんだろう・・・?」今までただガムシャラに莱夢を引っ張りまわしてきた自分に、ようやく気が付き始めた。誰かに相談したい。誰かに教えてもらいたい・・・・。電話帳で調べてみると、自宅近所の警察犬訓練所でハンドリングを見てくれることがわかった。さっそく電話をすると、「まず犬を見せてくれ」とのこと。莱夢と一緒行ってみた。

 まず訓練士さんと一緒に運動場に行き、審査員に見立ててハンドリングをしてみた。その後、室内に入ってお話を伺った。もちろん莱夢も一緒だった。訓練士さんが言うには、「犬は問題ないし、ハンドリングもそう悪くない」とのこと。ただ、「欲がない子ですね」と言われた。訓練士さんが言うには、莱夢にはガツガツとした欲望がないんだそうだ・・・。 「家庭で大切に育てられて、愛情たっぷりで、現状に満足しきってるんですね。いつも家族が傍にいて、ご飯や散歩も充分で、何もほかに望むことがない状態なんですよ。」と・・・。訓練士さんは続けた。「もっと飢えさせてください。そして、飼い主さんがもっとバカになって、時にはバカみたいに遊んであげてください」と・・・。

 確かに莱夢はガツガツしたところがない子だった。いつも穏やかで我慢強く、はっきりとした要求をしてこない・・・・。散歩もご飯も催促してこないし、遊びに誘ってもあまり乗ってこない子だった。私には莱夢を「飢えさせる」ことなんてできない。だから、私がうんとおバカになって莱夢の気持ち高めてあげなくては・・・。

 たまたまインターネットで見つけた山中湖の訓練所で、プロハンドラーの麻生先生がハンドリングの手ほどきをしてくださることがわかった。電話すると、麻生先生ご本人が出られた。私は今まで経緯を説明した。あと1枚のCCが取れずに悩んでいること。莱夢を人に預けたりするんじゃなくて、自分でハンドリングしてチャンピオンにしたいということ・・・。先生は「自分でやりたいって心意気がいいね。そういうの好きだよ。ハンドリングを見てあげるから遊びにおいで」と、気さくにおっしゃった。私と莱夢は、さっそく山中湖に行くことにした。

アラスカンマラミュート 画像 麻生先生の講習はそんなに堅苦しいものではなく、アットホームで楽しいものだった。もちろん、今まで知らなかった技術面での指導もいただいた。でも、私には何よりも精神面での指導がありがたく、まさに目からうろこだった。今までいかに莱夢に負担をかけ、いかに独りよがりで勝手なハンドリングをしていたことか・・・・。先生の言葉が胸に沁みた。「この子はいい子だね。こんなに穏やかで落ち着いていて、とても大切に育てられたのがよくわかるよ。」そうだった。莱夢はショードッグ以前に、私の大切なパートナーだったんだ。どうして、そんな大切なことを忘れていたんだろう。莱夢の気持ちを踏みにじり、莱夢の信頼を裏切ってきた自分にやっと気付かされた。はじめて莱夢とショーリングを走ったとき、どんな気持ちだった?ただただ嬉しくて、楽しかったよね・・・・。ああ、そうだ。あの気持ち、もうずいぶん感じていない・・・。

 こうして、「勝つためのドッグショー」から「莱夢と一緒に楽しむためのドッグショー」へと、私は方向転換することができた。あまり遠くのドッグショーには出陳せず、なるべく1時間以内の近場のみ参加することにした。会場では莱夢とメリハリをつけて遊ぶようにした。また、「勝ち」を目的としないで「莱夢が楽しい気持ちになる」ことを目的とした。少しずつ、本当に少しずつ・・・。長いトンネルの出口が、ようやく見えた気がした。