アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「第22話 犬橇初体験」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 第22話 犬橇初体験 

 莱夢は橇を引く犬種だ。でも、関東に住んでいて犬橇を体験するなんて、まず出来ないと思っていた。まさか本当に体験させてあげられるとは!

 2000年の11月ごろだったか、Toshiさんから「黒姫の犬橇大会見に行かない?」ってお誘いをいただいた。インターネットのお友達も参加したり観戦したりするらしい。プラスティックの橇を引く、自由参加の50メートル走もあるらしい。行きたい!こんな機会めったにないもの。そんな訳で、2001年1月21日に黒姫高原で開催される犬橇大会を観戦し、自由参加に参加するべく、前日の20日から現地に泊まることにした。

 20日の朝5時ごろ現地に着き仮眠をとった。8時すぎにToshiさんやnoijさんと待ち合わせ、ゲレンデで遊ぶことにした。このとき、莱夢は初めて「ハーネス」なるものを着けた。背中で「×(ばってん)」が重なり合い、身体を被うような仕組みになっている犬橇用のハーネスだ。五月ちゃんのハーネスだったので、莱夢にはブカブカだったけど・・・。

 ゲレンデではプラスティックの橇を引いたり、緩斜面を一緒に滑ったり(莱夢は走るのよ、もちろん)して遊んだ。そこで判ったこと、それは「莱夢は引かない」ってことだった。負荷がかかると足を止め、後ろを振り返ってしまうのだ。「だめ。莱夢つながってるから動けない」って、情けない顔をする莱夢。「Go!」と言われても、「なんのこと?」って感じだし、何よりも「引く」ってこと自体に戸惑いを感じているらしい。そりゃそうだ。ずっと、「引いちゃいけない!ママの左側を並んで歩くの!」って言ってきたのだから・・・。

アラスカンマラミュート 画像 翌21日はあいにくの雪。降りしきる雪の中、観戦もままならずタープ(後で聞いたら、これはマナー違反だった。スミマセン。)の中でウダウダしてばかりだった。目的の50メートル走は大会の最後。莱夢がちゃんと走ってくれるか心配だったか、「何事も経験!!」と思いレースに臨んだ。スタートのカウントダウンを聞く緊張の瞬間・・・。「Go!」の掛け声で勢いよくダッシュした莱夢だったが、すぐに後ろの私を振り返り「遊ぼう!モード」になってしまった。ゴールでToshiさんが莱夢を呼んでくれたので、莱夢はなんとかゴールまで走りきることができた。莱夢と一緒に同じゴールを目指す。この喜びを知ってしまった私は、シロウトながら犬橇の魅力に目覚めてしまった。来る2月12日、北軽井沢で開催される犬橇大会の「フレッシュマン」に、恐れ多くも出場することを決めてしまったのだ。

 北軽井沢では本物の橇を200メートルも引くことになる。呼び込みの伴走者がいても、今の莱夢には200メートルはとてつもなく長い距離だった。課題はたくさんあった。カウントダウンと共にダッシュする練習をしなくては・・・・。そして、後ろに負荷が掛かってもママが横にいなくても、自信を持ってまっすぐ走る練習も必要だ。翌日から、自転車での散歩の際、カウントダウンで走りはじめることにした。また、自転車をこがずに、莱夢に引かせるようにもしてみた。カウントダウンでダッシュすることは、すぐに覚えてくれた。ところが、「引く」ことはなかなか覚えてくれない。50メールくらいはガンガン自転車を引いて走るものの、すぐにテレテレと歩きモードになってしまう莱夢だった。私が自転車をこいで横に付くと、莱夢は自転車と同じ速度で走る。自転車が止まると、莱夢も止まってしまうのだった。これで大丈夫なのか??すごく不安・・・。"(>_<")"

アラスカンマラミュート 画像 毎年2月の第二土日に北軽井沢で開催される「炎のまつり」。初日の夜は、4000本のロウソクに火を灯す、幻想的なお祭りだ。真冬の澄んだ夜空に上がる花火も見ものだった。2日目には本物の橇を80メートルばかり引かせてくれるイベントがあった。まずは本番前に、その試乗会に参加した

 試乗会は11日の午後から。朝から目いっぱい遊んでいた莱夢は、どうやらお疲れ気味のようだ。実際にハーネスに橇を付けて引かせてみると、全然引かない・・・。ああ、やっぱり!振り返ってすごくつまらなそうな、イヤな顔をして、「もぉやだよ」って言ってる。ハーネスを手で引っ張って、「Go!」と言っても、仕方なくテレテレと歩くだけ。私はなんとか莱夢に橇を引かせようと、「莱夢!Go!!」と何度も声を掛けた。呼ばれるたびに振り返り、「もぉいや」って顔をする莱夢。ごめんね、莱夢。楽しくないの?貴女がイヤなら、私はちっとも楽しくないよ・・・。往復80メートルほどの距離を、めいっぱい時間をかけて歩いた莱夢。明日はどうしよう。200メートルもイヤな思いをさせるのは可哀想・・・。

 橇を返却する際、スタッフの方からアドバイスを頂いた。ライン(橇と莱夢を結ぶ引き綱)を弛ませないこと。弛むと犬の足に絡まったり、橇の下敷きになったりして危険だし、なによりも犬が歩きにくいらしい。下りになって橇が先走るときは、足でブレーキをかけること。その際橇のブレーキではなく、足のかかとを地面に押し付けてブレーキをかけるようにすること。橇のブレーキは急激に減速するため、犬に負荷が掛かりすぎるからだ。このアドバイスは本番でとても役にたった。あのとき教えてくださった方。ありがとうございます。

 莱夢が座っていた床に薄いピンク色のオリモノが付いていることに気が付いたのは、11日の23時ごろだった。思わず、深夜だというのにToshiさんの部屋まで報告に行ってしまった私・・・・。以前から、「なんとなく来る予感」はあった。やたらとオシッコをするし、オス犬達が陰部のにおいをかぎまくるし、なんとなく落ち着かないし・・・。でもまさか、前日に発情が来るとは・・・。残念だけど、明日は棄権かな・・・・。昼間、全然橇を引いてくれなかった莱夢。マッシャーをしていた私を振り返った顔は「イヤだよ、お母さん」って言ってた。発情中の莱夢が出たら、出走するワンにもマッシャーにも迷惑かけっちゃう。"(>_<")"

 覚悟を決めたものの諦めきれず、大会当日の受付時に 発情が来てしまった旨を伝えた。受付の方の答えは「昨夜くらいからなら順番を換えて最後に出走しましょう」。心配だったので、再度ドライバーズミーティングで確認したところ、やはりOKとのこと。みなさんの厚意で、莱夢と私は犬橇を初体験することができた。本当にありがとうございます。

 発情中なので、トイレもなるべく会場から離れた場所で・・・。トイレと気分転換以外は、ずうっと車の中でお留守番していた莱夢。フレッシュマンで五月ちゃんが堂々第3位の見事な走りを見せ、一般の部が始まったころ、ようやく莱夢を車から出して会場に向かった。スタート地点からなるべく離れたゲレンデの隅っこで、莱夢は雪をガシガシ掘って遊び、橇で遊ぶ子供たちと一緒に写真を撮られたりしながら順番を待った。思った以上に待ち時間が長い・・・・。莱夢が遊び疲れないかちょっと心配。

 前のチームがスタートした後、いよいよスタート地点に向かう。スタートのカウントを待つ間、莱夢ってば まるっきりやる気なし。伴走者の母がハーネスを持って前を向かせても すぐに体ごと振り返って私を見るし、顔はイヤそうだし・・・。ああ、これはもう走らないだろうなぁ・・・。ところが、5秒前のカウントがかかると莱夢の様子が一変!!耳をピンと立てて、しっかり前を向いて「行くぞぉ!!」とテンションが上がってきた。自転車で散歩するとき、必ず「5、4、3、2、1、Go!!」でダッシュする練習は無駄じゃなかった!

アラスカンマラミュート 画像 私の「Go!!」のひとことで、莱夢は順調にダッシュしてくれた。いいぞ、莱夢!最初の直線はゆるやかな登り。橇を押しながら、前日の練習で教えてもらったとおりラインがたるまないように気をつけて走った。コースは間もなく右巻きのカーブ。そこから下りの直線が始まる。遠心力で、橇がカーブの左壁に乗り上げそうになるのを修正しつつ、莱夢が一気に坂を駆け下る前に なんとか橇に乗った。運動神経が鈍い私としては、信じられない機敏な動作!橇の負荷がなくなったので、莱夢はグングン加速して走りだした。橇を操るのはすごく難しい。スピードが出てくるとコースの微妙な凹凸でも橇が踊ってしまう。それでも、橇が加速しすぎてラインがたるまないように、脚を逆ハの字にして かかとでブレーキをかけながら坂を下りきった。目前に迫った2度目のカーブも右巻き。またしても左の壁に乗り上げつつ、橇は無事カーブをクリア!でも、前で呼び込みをしてくれてる母を莱夢は追い抜いてしまった・・・・。「おいで!」と呼んでくれる人がいなくなったからなのか、疲れて飽きてきたのか、下りが終わって橇の負荷がかかったからなのか、ゴールまでの直線で莱夢は急にペースダウン。ラインがたるんで橇に下敷きになってしまい、橇の勢いもなくなってしまった・・・・。「このままじゃ止まっちゃう!」と、そう思ったその時、私の耳にもはっきりと聞こえた。

 「莱夢!おいで!!」
 「莱夢!こっちだよ!!」

アラスカンマラミュート 画像 ゴールでたくさんの友人が莱夢を呼んでくれている!両手を広げて待っている!莱夢は呼び声に応えるように、ゴール目指して力強く橇を引き始めた。そして、最後の直線を無事に走り抜けることができた。莱夢、頑張って偉かったね。走ってくれてありがとう!

 スタートからフィニッシュまで、1分8秒20。終わってみたら、なんと9頭出走中6位の成績だった。あのときみなさんが呼んでくれなかったら、きっと私たちは完走できなかったと思う。励ましてくれた方々、本当にありがとうございました。

 後になって、1番気になることをToshiさんに聞いた。それはゴールの瞬間、莱夢が笑っていたかどうか・・・・。答えは、「嬉しそうに笑ってたよ」。よかったぁ〜。いくら私が楽しくても、莱夢が楽しくないんじゃイヤだもの。前日の試乗で嫌な顔していた莱夢が、とても気になっていた私。今回、笑顔で莱夢が完走してくれたこと、なによりも嬉しく思った。

 犬橇の醍醐味は、莱夢と同じゴールを目指し、一緒に駆け抜けることだと思う。レース中は音がいっさい聞こえないくらい頭の中が真っ白で、前を走る莱夢のお尻と、もつれる自分の脚ばかり見えた。一瞬が長く短くきらめいてた。すごくスリリングでエキサイティングな体験だった。来年もぜひ、莱夢と一緒に参加したいと思う。