アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「第21話 自転車でお散歩」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 第21話 自転車でお散歩 

 莱夢と自転車でお散歩すること、それは私にとって夢だった。徒歩では得られなかった風を感じ、町内をゆっくりとめぐる。あっちの公園、こっちの草地、寄り道しながらのんびりお散歩。なんてったって莱夢の運動量が増えるし、私もちょっぴりラクできる。

 意を決して立ち上がったのは2000年夏のある夜だった。安易にも莱夢のリードを左手首に巻きつけ、颯爽と自転車にまたがって路上に繰り出した。ところが莱夢は「なに?なに??」と自転車に興味津々で、自転車の真正面に回って「遊ぼう」ポーズをとってしまう。そのたびにリードを引いて私の左側に座らせ、落ち着かせてから自転車をこいだ。何度か繰りかえすうちに、莱夢が調子よく自転車の横を走り出した。お?いい感じ。が!!我らが莱夢ちゃん、そう簡単におとなしく自転車に伴走してくれるわけもなく、突然の猛ダッシュ!当然、私は引きずられ、そのまま転倒してしまった。血だらけになって思った。莱夢はまだ生後9ヶ月。時期尚早だったかも・・・。痛い思いをしてちょっと怖くなった。いつか、そう、いつか上手にできればいい。十分な運動が必要になってくる、1歳をすぎたら考えよう。

 3回目の発情が終わった、2000年12月の半ばの月曜日だった。午後9時から徒歩で散歩し、さてお家に入ろうかと思ったとき、唐突に、ホントに唐突に、「あ、自転車で散歩してみるかな」と思った。時刻は午後9時45分。10時までの15分間、ちょっと集中してやってみよう。


◆初日◆
 私はおもむろに自転車にまたがり、莱夢のリードを左手首に巻きつけた。そして、ゆっくりと自転車をこいでみた。が、やはり莱夢は自転車の真正面に回って、「遊ぼう」ポーズをしてしまう。そうか、いきなり自転車の横を走らせるのは無理だよね。そこでちょっと考えた。莱夢にとって自転車ってなんだろう??怯える様子はない。むしろ興味がありすぎるようだ。自分より大きくて早く動くもの。遊び仲間だと思っているのかもしれない。ならば、まずは自転車の存在に慣れてもらおう。

 私は莱夢のリードを左手首に巻きつけたまま、自転車を降りて両手で押しながらゆっくり歩いた。莱夢が前に回って「遊ぼうよ!」とするたびに、リードを引きながら「NO!」と叱り、莱夢を私の左側に座らせた。そして、また自転車を押しながらゆっくり歩いた。莱夢が私の左側を自転車に合わせてゆっくり歩けたら、うんと大げさに「グゥ〜ドガール!!莱夢はとってもお利巧さんね〜」と褒め称えた。歩きなれた家の前の道を、30メートルほど歩いてはUターンした。何度か莱夢は自転車の前に出たが、そのたびに叱られることを悟ったらしい。自転車を気にしないで歩くと、ママはたくさん褒めてくれる!莱夢はそう思ってくれたらしく、次第に自転車の前に出なくなった。時計を見ると午後10時。莱夢が飽きてくる前に、たくさん褒めて訓練を終えた。

◆初日のまとめ◆
  1. 時間:21:45〜22:00
  2. 場所:誘惑の少ない、通りなれた自宅前の道を往復
  3. 準備:充分に散歩し、ウンチやオシッコが終わってから
  4. 目標:自転車の存在に慣れる


◆2日目◆
 翌日も午後9時から散歩し、たくさん歩いた後の午後9時45分から訓練をはじめた。まずは昨日の復習から。自転車を手で押しながら進むと、最初は自転車の前に出てしまった。でも1度「NO!」と叱られたら「そうだった!」と思い出したらしい。昨夜の終了時と同じように、上手に自転車の横を歩けるようになった。次に私は、自転車を手で押しながら走ってみた。莱夢は私の顔を見上げて、笑いながら楽しそうに走った。うん、これならいけそう!調子付いた私は自転車にまたがって、足で地面を蹴りながら進んでみた。莱夢は軽快に横を走っている。「莱夢、グッドガール!とっても上手だよ」と、莱夢を褒めながら、何度も家の前の道を往復した。時計を見ると、ちょうど午後10時。莱夢をたくさん褒めて頭をうんと撫でてあげながら、「とっても上手だったよ。また明日もがんばろうね」と、訓練を切り上げた。

◆2日目のまとめ◆
  1. 時間:21:45〜22:00
  2. 場所:誘惑の少ない、通りなれた自宅前の道を往復
  3. 準備:充分に散歩し、ウンチやオシッコが終わってから
  4. 目標:自転車のペースに合わせて歩く、走る


◆3日目◆
 さて3日目。例によって散歩を済ませてから、15分間の訓練をはじめた。まずは自転車を手で押しながら、ゆっくりと歩いてみる。大丈夫。莱夢は同じペースでちゃんと歩けている。次に自転車にまたがって、地面を蹴って進んだ。莱夢も速度をちょっと上げて、自転車に並んで小走りした。OK!おさらいはバッチリ。私は思い切って自転車をゆっくりこいでみた。莱夢は少し早足になりながらも、自転車に伴走できるようになっていた。自宅前の道を角まで進むと、私は自転車を降りてUターンし、元来た道を戻った。「莱夢、グッドガール!偉いね、とっても上手だね」と、莱夢を褒めながら、励ましながら、何度も何度も往復した。莱夢はすっかり自転車のペースに合わせて走ることを覚えたようだ。
 角まで来ると今度はUターンせず、右巻きに曲がってみた。角を曲がることは、ちょっと難しい。莱夢と私のペースが合わないと上手に曲がれないし、誤って自転車に莱夢が接触すると、怪我することになりかねない。左手に持ったリードを引きながら、「莱夢、ライト!」と声をかけつつ、ゆっくり、本当にゆっくりと角を曲がってみた。莱夢は一瞬、真っ直ぐ進みそうになりながらも、リードに導かれて角を曲がることができた。「莱夢!グッドガール!!いい子ね、そうだよ。そうやって曲がるんだよ」たくさんの褒め言葉で莱夢を励ましながら、自転車の速度を少し速めてみた。大丈夫。先走らずに付いてきてる。そして、次の角も右巻きに曲がってみた。「莱夢、ライト!」リードを引いてゆっくり曲がる。今度はしっかり曲がることができた。「そう、その調子!すごく上手!莱夢はグッドガールね!!」言葉をかける私を見上げ、莱夢はニコニコ顔で走っている。「楽しいよ、お母さん!」って笑ってる。何度か右巻きに角を曲がり、近所を一周するかたちで自宅に戻った。
 時刻は午後10時。ホント言うと欲が出て、もっと長い距離を走りたかった。でも大切なのは、莱夢が「今日は楽しかった、嬉しかった」という気持ちで訓練を終えること。一度に多くを求めすぎちゃいけない。今日の楽しさを明日につないでいくれればいい。私はぐっと我慢して、その日の訓練を終えた。

◆3日目のまとめ◆
  1. 時間:21:45〜22:00
  2. 場所:誘惑の少ない、通りなれたお散歩コースで
  3. 準備:充分に散歩し、ウンチやオシッコが終わってから
  4. 目標:自転車に伴走する、角を曲がる


◆4日目◆
 例によっていつもの時間、いつものごとく4日目の訓練をはじめた。昨夜、近所を一周できた莱夢だが、まずはおさらいから。自宅前の道を自転車をこぎながら何度かUターンしてみた。莱夢はすっかり覚えたらしく、軽快に自転車と並んで走ることができた。昨夜はじめて曲がった角を、右巻きに曲がってみる。莱夢は一瞬真っ直ぐ行きかけたが、「ライト!」という言葉とリードに導かれ、きれいにクリアできた。よし!今日こそは少し長く走ってみよう!直線を一定のペースで走り、思い切って左巻きに角を曲がることにした。左巻きの角、これは右巻きよりも難しい。なぜなら、莱夢を中心に自転車が外を回るからだ。莱夢が誤って真っ直ぐ進もうとした場合、回り込んだ自転車に接触する可能性が高い。私は自転車のブレーキをかけながら「莱夢、レフト!」と声をかけ、リードを後方にぐっと引き、莱夢の速度を落としつつ左に曲がった。莱夢の鼻先を車輪が掠め、一瞬ドキっとしたが、無事に角を曲がることができた。見上げる莱夢に視線を合わせ、「莱夢、グッドガール!上手ね」と褒めながらゆっくりと進んだ。

 何度か角を曲がるうちに、莱夢も私もコツを掴んできた。が、いきなり長距離は危険!300メートルおきくらいに自転車から降り、莱夢を休ませたり、自由に地面の匂いを嗅がせたりした。また、莱夢が「楽しい!嬉しい!」と思ってくれるように、大げさなくらい褒めながら進んだ。

◆4日目のまとめ◆
  1. 時間:21:45〜22:00
  2. 場所:誘惑の少ない、通りなれたお散歩コースで
  3. 準備:充分に散歩し、ウンチやオシッコが終わってから
  4. 目標:長い距離、一定のペースで自転車に伴走する


◆5日目◆
 翌日はちょっと時間を変えて、あえて徒歩の散歩も短くしてみた。ただし、自転車での散歩の途中、莱夢がよくオシッコする場所や匂いを嗅ぐ場所に立ち寄り、そこで「ワンツー、ワンツー」と促すことにした。莱夢はすっかり慣れたらしく、上手に角を曲がり、同じペースで伴走するようになった。でも油断は禁物。莱夢の表情や仕草をよく見ながら、また、前方に猫や犬がいないか見ながら、神経を張りめぐらせて自転車をこいだ。

 長くゆるい下り坂を走っているときだった。ふと、「あ、なんとなくダッシュしそうな気がする」と思った。莱夢の表情が、「んもぉ、楽しくって嬉しくって、このままどこまでも駆けていきたいわ!」と言ってる気がしたから・・・。私は用心のためにリードを左手首に巻きつけ、さらに引き寄せながら身構えてペダルをこいだ。そして、下り坂の終わりに右巻きに角を曲がったとき、それは起きた。突然莱夢が背中を丸め、すごい勢いで走り出したもんだから、さぁたいへん!。私は「予想的中!」と内心ほくそえみつつ、リードを強く引きながら「NO!!ストップ!待てぇ〜!」と叫んだ。ところが莱夢はグングン走る、走る、走る・・・!!安易にブレーキをかけたため、自転車はバランスを失い私は転倒しそうになった。私は思いきって自転車を蹴って飛び降り、片ヒザを地面に付いてよろけながらも踏みとどまった。転んでたまるか!!そのまま莱夢のリードを力いっぱい引くと、莱夢はかろうじて止まってくれた。が、振り返ったその顔は思いっきり笑っている。いけないことをした自覚、まったくないようだ。私は莱夢のマズルを軽く掴みながら、「NO!!」と低く大きな声で一喝した。莱夢ははじめ「なんで?」というように私の目をじっと見ていた。私は「怒りの炎が瞳でメラメラ燃えてる」つもりになって(実際はまったく怒ってないのだけど・・・)、じっと莱夢の目を見据えた。やがて莱夢は目線をチラチラと逸らしはじめ、耳を餃子のように倒して反省の表情になった。これでいい。「いけないことをしてしまったらしい」と莱夢が感じてくれればいい。私は莱夢のマズルからそっと手を離し、一呼吸おいてから言い聞かせた。「莱夢、自転車より早く行ってはだめ。莱夢もお母さんも怪我しちゃうんだよ。危ないんだよ」莱夢は耳を倒したまま、そっと「お手」をしてきた。これは「ごめんなさい」の意味。お腹を見せて謝らせるほどのことじゃないし、もう充分反省しただろう・・・。私は「じゃあ、もう少しお散歩しよう。大丈夫。きっと上手にできるよ」と言いながら倒れた自転車を起こし、自転車に乗ってペダルをこぎはじめた。莱夢は時々私を見上げながら走った。顔はもう笑っている。自宅までの道のり、莱夢が自信をなくさないように、いつもよりも大げさに励まし、褒めながら進んだ。

◆5日目のまとめ◆
  1. 時間:夜間、20分くらい
  2. 場所:誘惑の少ない、通りなれたお散歩コースで
  3. 準備:10分ほど歩いてから
  4. 目標:徒歩の散歩が少なくても、長い距離、一定のペースで自転車に伴走する
    *莱夢がいつも匂いを嗅ぐ場所、オシッコやウンチをする場所では止まる


◆6日目◆
 月曜から偶然はじまった訓練も今日で6日目。思いきって住宅街を抜け、バス通りに出ることにした。昨夜の失敗で莱夢が自信喪失してないか、ちょっと心配。でも、明るくっておキャンピーな莱夢嬢、るんるんしながらしっかり自転車に伴走してくれた。莱夢は人とすれ違うとき、座って尻尾を振りながら待つクセがある。いきなり座り込みはしないか心配だったが、あにはからんや、目線と尻尾で愛想を振り撒き、ちゃんと自転車に伴走してくれた。

 自宅に向けて帰る途中、昨夜自転車で転倒した場所に差し掛かった。ここは要注意。リードを引きながら用心深く進む。莱夢は一瞬スピードを上げたが、そのまま角をキレイにクリアできた。「莱夢、グッドガール!!」思いっきり莱夢を褒める。褒めながら、ハッと気が付いた。なぜ、昨夜この場所で莱夢がダッシュしてしまったのか??

 それは、下り坂で右巻きの曲がり角だからだ!右巻きに曲がるとき、莱夢は自転車を中心に曲がることになる。つまり、自転車よりも莱夢が早く走らないと、角をキレイに曲がれないのだ。莱夢は自転車に追いつこうと少しスピードを上げ、そのまま嬉しくなってダッシュしてしまったのだろう。しかも下り坂。私が乗る自転車は、意外とスピードが出ていたはず・・・。納得した私は、莱夢がいつも同じスピードで走れるよう、自転車の運転に気を配るようになった。

◆6日目のまとめ◆
  1. 時間:夜間、20分くらい
  2. 場所:人や車も通るコースで
  3. 準備:10分ほど歩いてから
  4. 目標:人通りが多くても、長い距離、一定のペースで自転車に伴走する
    *莱夢がいつも匂いを嗅ぐ場所、オシッコやウンチをする場所では止まる


◆7日目◆
 莱夢はおおむね自転車での散歩をマスターできたようだ。そこで、今日は日中に走ってみた。夜はハウスで眠っているワン達も、昼間は庭先やベランダに出ているし、散歩の子だっている。猫だってたくさんいる。こんなに誘惑が多い中、はたして莱夢はちゃんと走れるのか??

 散歩中のワンに、いきなり出会った。「遊ぼう!」と莱夢が挨拶する前に、私の自転車はどんどん進んでいく。「莱夢。ストレート!!」声を掛けると莱夢は自転車に引っ張られて、後ろを振り返りながらもちゃんと伴走することができた。ところが、猫だけはダメだった。もぉ、姿を見ただけで猛ダッシュ!!仕方がないので、猫を見つけたら即方向転換することにした。

◆7日目のまとめ◆
  1. 時間:日中、20分くらい
  2. 場所:ワンがいるなどの誘惑が多いコースで
  3. 準備:10分ほど歩いてから
  4. 目標:日中でさらに誘惑があっても、長い距離、一定のペースで自転車に伴走する
    *莱夢がいつも匂いを嗅ぐ場所、オシッコやウンチをする場所では止まる


◆笑撃!?ウンチ事件◆
 莱夢が自転車での散歩に慣れたころ、ショッキングなウンチ事件が勃発した。ある日の昼下がり、ゆるやかな下り坂の道をのんびりと自転車で散歩していた。ふとリードが後方に引っ張られたので、「莱夢、ほら頑張って!」と、後ろも見ずにペダルをこいだ。ところが、数メートル進むとまたリードが後ろに引っ張られる。3回ほど引っ張られたとき、さすがに気になり後ろを振り返って莱夢を見た。莱夢ちゃん、すごぉ〜く困った顔。え??なに、どうしたの?なんだかへっぴり腰な格好の莱夢のお尻の下に、なにやら柔らかくて茶色いものが・・・!ああ!!と思って通ってきた道に目をやると、10メートルくらい手前から、ほぼ等間隔に茶色いブツが点々と落ちている。うわぁ〜!ごめんね、莱夢ちゃん!莱夢はウンチをしながら走っていたのだ。気づかずどんどん進む私に何も言えず、中腰ガニ股で用を足しながら走っていたのだった。絞り出すとき、仕方なく一瞬立ち止まったのだろう。私ってばレディーな莱夢になんて可哀想な思いをさせてしまったのだろう・・・。すぐに自転車を止め、莱夢の抱きしめながら「ごめんね、莱夢。つらかったね。お母さん気が付かなくて悪かった。ホントにごめんね」と謝った。すぐに戻ってウンチを拾い、念のために莱夢のお尻を見て驚いた。どんなに大量のウンチをしても、下痢気味でも、決して汚れたことのない莱夢のチャーミングなお尻の毛が、なんと汚れていたのだ!!あああ、激、反省!!ただ自分のペースで走るだけじゃだめ・・・。莱夢の顔を見て、ちゃんとコミュニケーションをとりながら走ることが大事。だって、莱夢のお散歩なんだもの・・・。そう、心から思った事件だった。

 こうして、莱夢は自転車での散歩が大好きになった。寒い季節が終わったら、お弁当を持って河原の土手をお散歩したいと思う。莱夢との楽しいお散歩はずうっと続いていく。