アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「第20話 反抗期?ママへの挑戦」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 第20話 反抗期?ママへの挑戦 

 莱夢は明るく社交的で好奇心旺盛な「人懐っこくて犬懐っこい」性格だ。そして怖いもの知らずで、目の前で上がった打ち上げ花火も、とどろく雷鳴すらも怖がらないタフなキャラクターでもある。そのキャラクターは、莱夢が持って生まれた神様からのプレゼントだと思う。そんな彼女本来の性格を大切にしながら、私は莱夢を「誰とでも、どんな犬とでも仲良く出来る、優しくて安全な犬」に育てたいと思っている。莱夢は莱夢なりにその思いに応えてくれている。しかし、理想のワンワンライフを目指して二人五脚で頑張る私と莱夢の間に、「反抗期」という壁がそびえた時期があった。それは、莱夢が生後6ヶ月を迎えた頃から始まった。

 莱夢には子犬の頃から「人間の身体は絶対に噛んではいけない」と教えてきた。もともと甘噛みもあまりしなかった莱夢だったので、生後6ヶ月の頃には、口の中にゲンコツをぐりぐりとに突っ込まれても平気な子になっていた。自分から噛むなんてことはまずなかった。間違って莱夢の歯が私に当たろうものなら、「ごめんなさい、違うの、わざとじゃなくて当たっちゃったの。ああ、アタシったら何やってんのかしら!ごめんなさい!!」と、お腹を見せるやら自分の顔を前足でこするやら私の手をなめるやら、それはもう身体全体で戸惑いと後悔と謝罪を表した。その莱夢が、何かの拍子に我を失ったかのように興奮し、身体ごとぶつかってきた。まさに、「挑戦か?」と思うような振る舞いだった。*1

 少しリードを長めに持ったとき、ウンチをしてすっきりしたとき、溝を飛び越えたときなど、突然背中を丸めて走り回り、興奮したそのままの勢いで私の腕に飛びついてくるのだ。ときには「ガウガウ」と荒っぽい声をあげて飛び掛り、その勢いで莱夢の歯の側面が手に当たることもあった。それは、喜びと怒りとが混ざった、複雑な感情からのようだった。子供とはいえ体重は30kg近い莱夢だし、大きな牙も爪も持つ莱夢だ。その彼女が全身でアタックする姿は、はっきり言ってかなりの迫力である。でも、絶対に負けてはいけない!そんなときの私は、莱夢を断固として叱りつけた。

アラスカンマラミュート 画像 飛びついてくる莱夢の顎を下から手の甲で引っぱたき、ひるんだ隙に首根っこを引っ張って地面に引き倒す。そして仰向けになった莱夢に馬乗りになり、マズルや喉元を押さえながら「NO!!」と低く一喝する。そんなことでめげる莱夢ではない。莱夢は後ろ足で私を蹴り飛ばそうと、激しく暴れる。莱夢の後ろ足の爪が、私の足やお腹を切り裂いていく。負けるもんか!お母さんに挑戦するなんて、あまつさえ勝とうなんて、100年早いんだよ莱夢!!暴れる莱夢に跳ね除けられそうになりながらも、押さえつけ、マズルをグッと掴む。そして、「全身から怒りのオーラがメラメラと立ち昇り、瞳は怒りで燃えている」自分を演じながら莱夢を睨み据える。判って!莱夢!!お母さんには絶対に勝てないのよ!!やがて莱夢は観念し、ピーピー鼻を鳴らして「ごめんなさ〜い」と謝る。この頃の莱夢は、「謝れば許してもらえる」と学習していたので、演技で謝るフリをすることもあった。だから容易には許さず、莱夢の瞳を覗き込んで一呼吸おいてから許すようにしていた。私が莱夢の上からどくと、莱夢は「あ〜、びっくりした」とばかりにプルプルと身体をゆすった。莱夢は叱られたことを根に持ってウジウジしたり、イジケたりするようなタマではない。場合によっては「それ!第二ラウンドだ〜!!」とばかりに、また飛びついてくることもあった。もちろん、何度チャレンジしてきても有無を言わさず馬乗りになって、莱夢が本気で謝るまでは決して許さなかったが・・・。

 こんなことが、1ヶ月に1度くらいの割合で起きた。それは場所を選ばず突然やってくる。「よりによって、なんでこんな場所で〜!」ってな場所でも莱夢は挑戦してきた。夜の公園で語らうカップルの前で莱夢を組み敷いたこともあったし、コンビニの駐車場で莱夢に馬乗りになったこともあった。動物虐待と思われようが、犬が人を襲っていると思われようが、恥かしかろうが、みっともなかろうが、そんなこと考えていられない。莱夢にとって、「今、この瞬間」が大切なのだから。

 やがて秋がきて「莱夢ももうすぐ1歳ね」という頃、その事件は起きた。その日私は、なんとなく莱夢の挑戦の気配を感じ、「存分に闘える静かな場所」ばかりを選んで散歩していた。ハンドリングの練習のつもりで莱夢と並んでかるく走ったとき、ふいに莱夢が背中を丸めて嬉しそうに走り始め、やがて「ガウガウ」と飛びついてきた。「やっぱり来たね!」私は莱夢の首の後ろを掴んで引き倒そうと構えた。莱夢が飛びついたそのとき、私の構えた手の甲に莱夢の犬歯が思い切り当たった。「痛い!」一瞬ヒヤリとした。莱夢の歯が当たった?ウソだ、そんな筈はない。でもこんなに痛いこと今までになかったよね?やっぱり莱夢の歯が当たった!くっそー莱夢のヤツいい気になりやがって!!こんっのヤローーーー!!「冷静に叱る」なんて言葉は、一瞬にして私の頭から消えうせた。いつも以上の迫力で莱夢を組み伏せ、マズルを「これでもか!」とばかりに掴んで「NO!!アンタは絶対にやっちゃいけないことしたんだよ!!」と怒鳴った。見据えた莱夢の目が、やがて助けを求めるように泳ぎ始める。でも、今日は許してやんない!!ヒーヒー鳴く莱夢を地面に押さえつけ、「もう二度とするんじゃない!!」と何度も言った。正直、莱夢を叩きそうになった。「感情で叩いてはいけない!」と、振り上げた手を、なんとか思いとどめて降ろした。

 莱夢を静かに放し、「伏せ」とコマンドを出した。ところが莱夢は明後日のほうを見たまま知らん顔。こんのヤロー、無視するなんて反省が足りん!!リードを引っ張って無理やり伏せさせる。「莱夢が私に歯を当ててきた」という怒りは、そのまま「莱夢が私の言う事を効かない」怒りへと摩り替わってしまった。莱夢を樹につなぎ、しばらく無視して落ち着いてから、その日はまっすぐに家に帰った。家の前で再度「伏せ」のコマンドを出したが、莱夢は「聞こえないふり」をして澄ましている。私はついに頭に血が登ってしまい、あろうことか莱夢の右前脚を靴の先でギュッと踏みつけ、「この手を前に出すの!伏せ!!」と怒鳴った。莱夢は「キャン!」と悲鳴をあげた。そのときの莱夢の表情、今でも昨日のことのように思い出せる。怯えと不信と悲しみに満ちた表情だった。「お母さん、どうしてこんな痛いことするの?」って、すごく戸惑った表情だった。私は莱夢の表情でハッと目が覚め、自分が莱夢に対して何をしたのか悟り、そして怖くなった。誰よりも愛しい莱夢の脚を、感情に任せて踏みつけた自分が怖くなった。こんなのは「しつけ」じゃない。暴力で莱夢を従わせようとしただけ。何てことをしてしまったんだろう!

 莱夢を玄関の扉につなぎ、私は家の中に逃げ込んだ。どうしよう。莱夢が寄せる信頼を、私は暴力で踏みにじったんだ。私は思わず莱夢の故郷に電話をしてしまった。幸い自宅にいたブリーダーさんは、しどろもどろに状況を説明する私の話を聞いて、ずばり言い当てた。
 「あなた、莱夢が歯を当ててきたことに悩んでいるんじゃなくて、莱夢の脚を踏んだ自分が怖くて電話してきたんでしょ?」
 その一言で、私はみっともなく泣き出してしまった。
 「莱夢が、不信に満ちた目で見たんです。どうやってあの子と仲直りすればいいのか・・・」
 ブリーダーさんは笑いながら言った。
 「大丈夫よ。あなたと莱夢の関係って、こんなことじゃ壊れないでしょ?今、莱夢はどこにいるの?」
 「玄関のドアにつないだまま、外にいます」
 「少し時間を置いて、いつもどおり入れてあげなさい。そして、莱夢の手をとって『どこが痛かったの?このお手々が痛かったのね?でもお母さんも莱夢の歯が当たったここ、すごく痛かったのよ』って、たくさん言葉をかけてあげなさい。大丈夫だから」

 ブリーダーさんと電話している間、旦那さまが「煙草買ってくる」と出て行った。その際、「お、莱夢ちゃん入れてもらえないのか?入っていいよ」なんて言いながら、莱夢を玄関の中に入れたようだ。私はブリーダーさんとの電話を終え、少し落ち着いてから莱夢を迎えに玄関に行った。莱夢は根に持ったりイジケたりする子じゃない。「お母さん、早くアンヨ拭いて中に入れてちょーだい」と、座ってお手をしてくれた。その手をそっと掌に包んで、「莱夢、痛くしてごめんね」と、何度も謝った。莱夢の歯が当たった場所は、小さな青い痣になっていた。

 後日このことを友人に話したら、「歯を当ててきたら、すかさず前足を犬の口に咥えさえ、マズルを掴む」という効果的な叱り方を教えてくれた。つまり、「人間に歯を当てたら自分で自分の手を噛んで痛い」ことになるのだから、まさに自業自得って訳だ。

 この事件で私は、「冷静に叱ることの難しさ」と、「自分の弱さ」を考えさせられた。莱夢はその後も時々「挑戦」してきたが、そのつど莱夢の態度に応じて精一杯、私なりに悩み、考え、対応した。莱夢が1歳2ヶ月くらいになると、不思議に「挑戦」はピタリと止んだ。すごく嬉しいときなど、ときどきガシガシ走り回ることもあるけど、その勢いで飛びつくことはもうない。興奮していても、私の「NO!」の一喝で、「は!いかんいかん」と、すぐに我に返るようになった。もちろんまだまだ油断はできないけど、これからも穏やかで優しいレディーになってくれるよう、莱夢とともに努力していきたいと思う。

*1:莱夢の挑戦
莱夢との暮らしが長くなった今になって当時の状況を思い出しても、はたして彼女が「挑戦」していたのかどうか判らない。「挑戦」というよりは「興奮」だったのだろうか?散歩の喜びと煩わしいリードへの憤り、そしてエネルギーの発散・・・。そんな複雑な感情を、全身で表現していたんだろうと思う。ねえ?莱夢、ホントのところはどうだったの?