アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「第8話 反抗?」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 第8話 反抗? 

 年が明け、莱夢を迎えて約1週間が過ぎた。夜鳴きは相変わらずだったが、莱夢は我が家の暮らしに慣れはじめ、だいぶ落ち着いてきていた。しかし、ここで大きな心配事が持ちあがった。正月休みの恒例で、だんな様の実家に1泊することになったのだ。この時期の莱夢は、とても連れて行ける状態じゃなかった。やむを得ず、私の実家に預けることになった。(ちなみに伽凛はお留守番)

 実家に連れて行かれた莱夢は、私の両親の熱烈な歓迎を受けた。莱夢も尻尾をブンブン振って、両親の顔をベロベロなめてこたえた。もともと犬が大好きだった両親は、穏やかな性格の莱夢をすっかり気に入り、まるで孫が遊びに来たかのように可愛がった。そんな莱夢の様子に安心した私たちは、莱夢を置いてだんな様の実家へと旅立った。出かける際、莱夢は玄関先まで私たちを追いかけてきた。莱夢は得意のお座りをして、不安そうに私の顔を見上げた。久々に莱夢から開放された喜びと、せつなさとが入り乱れ、私はとても複雑な気持ちだった。だんな様の実家へ向かう途中、私は電話で莱夢の様子を聞いてみた。莱夢はしばらく玄関から離れなかったらしい。「とてもいい子にしてるわよ」という母の言葉に、ちょっと安心した。莱夢、ごめんね。たった1泊だけだから、どうかいい子で待っててね。

 翌日の夕方に帰ってきた私たちを、莱夢は狂喜乱舞して迎えてくれた。飛びついて手や顔をなめ、部屋中をガシガシ走りまわり、嬉しさのあまりオシッコをちびったりした。莱夢が落ち着くのを待って、だんな様は伽凛が待つ自宅へひとあし先に帰った。私はのんびりするべく、莱夢と一緒に実家に残った。たった1日だというのに、莱夢はすっかり実家に馴染んでいた。

 いざ帰るときになって、莱夢が突然反抗的になった。ガウガウ言いながら、私の腕に歯を当ててきたのだ。本気で噛みはしないものの、私はうろたえてしまった。ホント言うと、ちょっと怖いと思った。でも、私は莱夢の母として、いけないことはいけないと教えなくてはならない。莱夢を床に押しつけ、マズルを掴んで「NO!」と叱りつけた。莱夢は「ヒーンヒーン」と鳴いて謝ったが、手を放すとすぐに「ガウガウ」と飛びついてきた。莱夢は、基本的には穏やかで明るい子だが、叱られても凹まないタフな性格でもあった。私はすっかり自信がなくなってしまった。そして、「なぜ?」という気持ちでいっぱいだった。

 自宅に着くと、さっそくブリーダーさんに電話で相談した。ブリーダーさんは首をかしげた。
 「あの子はそんな攻撃的な子じゃないわよ。何か変わったことがあったんじゃない?」
 「実は、1泊2日で実家に預けたんです」
 「それが原因よ。あの子にしてみたら、その2日はとても長かったのよ。あなた方をパパとママと思いはじめた矢先に知らない人に預けられて、とっても不安だったんだと思うわ。捨てられたと思ったのよ。せっかくの信頼関係が壊れちゃったのね。それに、ご両親は莱夢を甘やかしたんじゃない?」
 「たぶん・・・」
 「で、あなたは莱夢に支配的な態度で接したでしょ?」
 「はい。『座れ』や『待て』をさせましたから・・・」
 「莱夢にしてみれば、自分のことを捨てておいて、急に帰って来て偉そうな態度とられたものだから腹が立ったのね。でも会えて嬉しい気持ちもあるし。どうしていいかわからないで、気持ちの整理がつかなくて、身体ごとぶつかってきたんだと思うわ」

 私は、ブリーダーさんの話を聞いているうちに、涙があふれて止まらなくなってしまった。莱夢を支配することばかり考えている自分に気が付いたからだ。畳み掛けるようにブリーダーさんが言った。
 「人間の子供と同じなのよ。小さな子が知らないお宅でお留守番してたら、『ごめんね。いい子でお留守番していて偉かったね。はい、お土産よ』って声をかけてあげるでしょ?それと同じなのよ」
 私はもう、涙で言葉につまってしまい、何も言えなかった。
 「手はそんなに掛けなくてもいいから、目と声を掛けてあげて。そして、1度に多くを求めないで。あの子は環境に慣れるだけで精一杯のはずだから」

 ブリーダーさんの言葉が、私の乾いて毛羽立った心をゆっくりと潤していった。私は、莱夢に対して多くを求めすぎていた。あれもこれも出来るだろうと、押しつけていた。世話のたいへんさから、いつもイライラして接していた。そんな自分が情けなかった。そして、莱夢に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ブリーダーさんが優しく言った。
 「お迎えから2週間くらい経つと、みんな電話をくれるのよ。犬も人も、今が頑張り時なの。壊れた信頼関係をもとに戻すには時間が必要だけど、あの子は明るくておおらかな子だから大丈夫よ」

 私はブリーダーさんからたくさんの勇気をもらった。電話を切ったあと、莱夢を思いっきり抱きしめて泣いてしまった。莱夢、本当にごめんね。私は自分のことばかり考えてたんだ。莱夢の辛さや淋しさを、ちっともわかってなかった。莱夢を迎えた日、ブリーダーさんが莱夢の健康手帳に書いてくれた言葉を思い出した。

 「私の名前は『らいむ』 10月1日生まれの女の子 明るくて行動的な子 抱っこ大好き おしゃべり大好き すご〜く淋しいけど 1日も早くなれるように がんばるね」
 この言葉の重みを、はじめて実感した。

 その夜、私がお風呂に入ろうと廊下に出ると、莱夢は淋しそうに鼻を「ヒーン」と鳴らして後を追った。「来たいの?莱夢おいで」と呼ぶと、嬉しそうに尻尾を振りながら洗面所まで付いてきた莱夢。私が浴室に入ると、莱夢まで浴室に入ってきて、ちんまりとお座りをした。浴槽に身を沈めた私の目と、お座りしている莱夢の目が合った。莱夢と同じ目の高さ。これが莱夢の目線・・・。莱夢の目線で周りを見まわし、莱夢の目をじっと見詰めて気が付いた。莱夢がいつもいつも私を見ていること。莱夢は、いつも「お母さん、お母さん」と思っているんだ。莱夢のいじらしさ、愛しさに、またしてもたくさん泣いてしまった。莱夢はそんな私の涙を、やさしくなめてくれた。

 本当の意味で莱夢を迎え入れたのは、きっとこの日だと思う。この日から、莱夢との楽しい暮らしがはじまった。