アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「第4話 莱夢との出会い」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 第4話 莱夢との出会い 

 10月に入り、いよいよ私のマラミュート熱はぐんぐん上がっていった。結局、キキちゃんは大きいので見送ることになった。しかし、毎週の熊谷通いにだんな様もあきれ果て、「12月に生まれる子犬を、GWに迎える」方向で承知してくれた。ところが大型犬の妊娠は出産ぎりぎりまでわかりにくく、12月に子犬が生まれる確証はどこにもなかった。

 そんな10月の下旬、ブリーダーさんから電話が入った。
 「10月1日にファミリー*1の女の子が岐阜で出産してるんだけど、その子供達の写真が届いたの!3頭中、2頭が女の子で、すごくしっかりしたいい子よ!とくに片方の女の子は素晴らしい骨格だわ!どっちもウルフグレイのキレイな子!30日に母犬と一緒に熊谷に移動して来るんだけど、見に来ない?」
 私の中に、ひらめきに似た予感が走った。この子達が、私の運命の子だ!
 「行く!行きます!!」
 私は即答し、11月6日に訪ねる約束をした。あいにくブリーダーさんは当日不在なので、ブリーダーさんのだんな様が応対してくれることになった。

アラスカンマラミュート 画像 当日はなぜか道も空いていて、楽々と熊谷まで行けた。ブリーダーさん宅に着き犬舎のほうに行くと、ブリーダーさんのだんな様が犬舎を掃除している最中だった。すぐに私に気がつき産室から子犬を連れてきてくれた。
 「ウチのヤツは、こっちの子を薦めてたよ」
 だんな様の腕の中には、ぬいぐるみのような、オープンフェイスの子犬が抱かれていた。
 「ほら、抱いてごらん」
 だんな様は子犬をそっと私に託してくれた。私はどう抱いていいのかわからず戸惑った。見た目よりずっと重く、暖かった。ミルクのような、陽だまりのような匂いがした。つぶらな瞳で私を見つめていた。でも、何かが違う。なんだか違和感を感じた。この子じゃない気がした。
 「あの、もう1頭の女の子も見たいんですけど」
 「いいよ。連れてくるから待ってて」
 だんな様は産室に引き返し、もう1頭の子犬を抱いて現れた。その瞬間を私は忘れない。だんな様の腕の中に、ゴーグルのくっきりした精悍な顔立ちの子犬がいた。そこだけスポットライトが当たったように、浮き上がって見えた。子犬を除くすべての景色が一瞬見えないくらい、私はその子犬に惹かれてしまった。自分の腕の中に、別の子犬がいることすら忘れてしまった。ああ、この子だ。間違いない。私はこの子を探してたんだ。これが、莱夢との出会いだった。

アラスカンマラミュート 画像 2頭の子犬の写真を撮るため、お宅に上がりこんだ。そこで、2頭の性格の違いがよくわかった。莱夢は、さっそく部屋の中を探検してまわった。座った私の膝に上がってきたり、電気コードにじゃれたりした。鈴の入ったボールを転がせば、夢中で追いかけたりもした。莱夢はとても明るく、好奇心旺盛な子だった。いっぽうの子犬は、どっしりと座布団に座り込んだまま動かない、とても落ち着いた性格の子だった。

 これはもう決まりでしょう。12月に産まれる子じゃなく、今ここにいるこの子こそ、ウチの子だ!写真を撮るだけ撮り、なんとか今日中に現像してウチのだんな様に見せたいと思った。この子達の写真を見たら、もう飼わずにはいられないだろう。出来あがった写真が私の切り札になると確信した。

アラスカンマラミュート 画像 家の近所のフォトショップに駆け込み、頼み込んで今日中に現像をしてもらった。写真を見ただんな様の反応は、予想以上に良好だった。「12月に産まれる子犬をGWに迎える」ではなく、「どっちの子をいつ迎えるか」という話しになっていた。だんな様は、ブリーダーさんお薦めの、オープンフェイスの子がいいと言った。写真映りもよかったからだと思う。落ち着いた性格も気に入ったようだ。私も、現像された写真を見て迷った。確かに、莱夢の写真映りはお世辞にもよくなかった。ゴーグルがあるせいか、しかめっ面に見えた。でも、私は莱夢に出会った瞬間の、あの感動を忘れていなかった。私はだんな様を説得した。好奇心旺盛でヤンチャな子は、最初はイタズラして大変だけど、のちのちは物事に動じない落ち着いた子になること。その好奇心を訓練に向けさせれば、しつけがしやすいこと。などなど・・・。結局だんな様は、私の意見に負け、莱夢を我が家に迎えることを了承してくれた。

 翌週の週末、2人で莱夢に会いに行った。その愛くるしさにメロメロになった私達は、12月中に莱夢を迎えることに決めた。彼女との大乱闘の日々は、こうしてはじまったのだ。

 運命ってわからない。もし、あのとき電話をかけてなければ、もし莱夢に会いに行かなければ、もし、もう1頭の子を選んでいれば、莱夢は、莱夢でなかったのだから。世界中でたった1人の、愛しい愛しい莱夢は、別の人生(?)を送っていたかもしれない。本来ならば、極寒のアラスカで橇を引いて暮らす犬だ。彼女が我が家にいること自体、人間のエゴだと思う。彼女の生命のきらめき、野生、誇りに触れるたびに、私は人間が失ったものの多さに悲しくなる。縁あってめぐりあい、我が家の一員となった莱夢。彼女が「幸福」か「不幸」かは、彼女自身に聞いてみないとわからない。彼女が笑って「しあわせよ!」と言ってくれるように、私は努力を惜しまないつもりだ。

★余談★
 もう1頭の女の子は「舞夢(まいむ)」と命名されブリーダーさんの元で育っていたが、生後約7ヶ月でオーナーさんが決まった。現在年下のお婿さんとともに、楽しい毎日を送っている。
 弟は「童夢(どうむ)」と命名されたがすぐにオーナーさんが決まり、「風太(ふ〜た)」と改名された。現在は北海道でのびのびと暮らしている。

*1:ファミリー
ブリーダーさんが産出し、オーナー宅で育っている子のこと。莱夢もファミリーである。